シンガポール人材育成の最新のトレンド
~行動変容が最強のソリューション!ブレンドラーニング~

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人材開発の目的は、どんな時代であっても、「会社のミッション・ビジョン・戦略の実現に貢献する人材を育成する」ということは変わらないだろう。しかし、環境や企業が変化すれば、企業が求める人材像も変化する。求められる人材像が変化するということは、過去これまで行ってきた育成のやり方、研修のあり方も変化することが求められる。
昨今、ビジネスを取り巻く環境は激変し、労働集約型の仕事はより安い人件費の国に流れ、IT化によって人の仕事の一部は機械がするようになっている。そのため、企業は従業員のスキル・知識を高め、より人にしかできない高付加価値の仕事を生み出すことが要請されている。特に資源の少ないシンガポールにおいては、付加価値の高い仕事を生み出す人材は極めて重要である。17年度の国家予算のうち16%が教育費を占めていることからもシンガポールでは人材開発が極めて重要な位置を占めているのもうなずけるだろう。
さて、在星日系企業の人・組織面における命題は何か?その1つは、「優秀な人材を採用し、育成し、定着させるために日系企業として何をするのか」ではないだろうか。さまざまな企業が優秀な人材の獲得に躍起になっているシンガポールにおいて、我々日系企業は何をしていく必要があるのかを「育成・人材開発」に焦点を当てて見ていきたいと思う。
シンガポールにおける人材開発のトレンドとしてはいくつかあるが、今回はそのうち以下2つの取り組みについてご紹介する。
1. シンガポール政府による人材開発トピックのトレンド
a)従来の専門性やマネジメント×8つのスキルトレーニングへ
2. 人材開発手法のトレンド
a)教室研修からブレンドラーニングへ
シンガポール政府による人材開発のトレンド
~従来の専門性やマネジメントX8つのスキルトレーニングへ
シンガポール教育相は金融とITを融合したフィンテックなどの最新技術に精通した人材育成に力を入れる方針を示した。世界や地域の金融センターとして主要産業である金融分野の成長率年4%超、「年間の純雇用創出で3千人」を目指している。DBSは2017年に今後5年間でシンガポール国内社員1万人に対するデジタルスキル向上プログラムに$2,000万ドルを投じると発表し、UOBもテクノロジーベースの研修プログラムを従業員教育に$2,000万ドル投じると発表している。フィンテック等の普及により銀行業務が高度にIT化する中、従業員のスキル開発を進め、競争力を強化する予定である。
デジタルやテクノロジーベースのトレーニング投資は一部の業界に限った話ではない。SkillsFuture Singapore (SSG)はこれまでシンガポール人向けに提供していたスキルとは別に、新しく8つのスキルのトレーニングプログラムを用意し、2020年までに年5万人のシンガポール人を育成する予定である。
<SkillsFutureが新しく提供する8つのスキル>
1. Data analytics
2. Finance
3. Tech-enabled Services
4. Digital media
5.Cybersecurity
6. Entrepreneurship
7. Advanced manufacturing
8. Urban Solutions
2017年よりシンガポールがデジタルやテクノロジーの能力開発に力を入れていることがわかる。これは必ずしもテクノロジーだけに特化した人材を育成しようというわけではない。会計士や弁護士などの専門的なスキルを持つ人材、またはマネジメントの立場など、今保有しているスキルに加えて、さらに8つのいずれかのスキルを備えることが求められている。複雑化する社会のニーズに対応するためには1つの限られた分野だけでは対応できなくなっており、より広範な専門性を備えた人材が不可欠になっている。今回のテクノロジーベースのスキルセットも複雑化する社会ニーズに対応するための施策の1つだと考えられる。
ここまでは、シンガポールでの最近の人材開発のテーマのトレンドを見てきた。次からは従来からある人材開発や研修の手法・やり方に関するトレンドを見ていく。
人材開発手法のトレンド
~教室研修からブランドトレーニングへ~
皆さんも過去何かしらの研修を受けたことがあると思う。その中には、高校や大学の授業のように講師が一方的に話す形式もあれば、参加者同士がディスカッションやグループワークを行う形式もあったはずだ。また、自宅やオフィススペースでビデオや教材、ウェブを通じて自分の好きな時間や場所で学ぶ形式もあったのではないだろうか。シンガポールでもこれまでの多くの研修のスタイルは今挙げた3つの種類に当てはまる。
<従来の研修の形式>
形式 |
種類 |
概要 |
講師対面型 |
座学・講義型 |
講師と受講者が対面し、講師による講義を中心とした学ぶスタイル |
対話・体験型 |
受講者が体験、対話を通じて学びを深めるスタイル |
|
講師非対面型 |
eラーニングなど |
テキストやビデオ、ウェブを通じて自分の都合のよい時間に学ぶスタイル |
ところが、昨今のテクノロジーの進化、多様な働き方、効率的な学習スタイルなどにより、研修の形式が変わりつつある。従来の研修は教室研修(対面型の形式)だけで行うことが多かったものの、グローバルではその割合が減ってきている。以下のグラフは人材開発に関する世界最大の組織ATDの調査によるグラフだ。
AVERAGE PERCENTAGE OF FORMAL LEARNING HOURS AVAILABLE VIAINSTRUCTOR-LED CLASSROOM

参考:ATD State of Industry report 2017
このグラフは従来の教室で行う対面型だけの研修が年々減ってきていることを表している。グローバルでは人材開発にかける時間のうち50%は従来の対面型の研修であるが、もう50%は対面型の研修ではなくなっている。では、どのような研修が増えてきているのかと疑問に思うところだが、その解に入る前にそもそも人はどのように成長するのか? その法則から触れていきたい。
人が成長する法則の一つとして「70:20:10の法則」がある。これは、米国のリーダーシップ研究のロミンガー社の調査によって導かれた法則である。経営人材のリーダーシップ開発のために有効だった経験の内訳(成長に役立ったと思う出来事の内訳)は、「70%が仕事上の経験、20%が上司や周囲の人から受けた助言や薫陶、10%が学習・教育研修」というものである。
<人が成長する70:20:10の法則>

70%が仕事上の経験であるというのは、皆さんも心当たりがあるかと思う。残りの20%の薫陶と10%の学習は人の成長にとって重要ではない、ということではない。この経験・薫陶・学習の3つは比較して順位付けるものではなく相互に関連付け連動していることが重要である。
実は多くの企業での人材開発は表面的にはこの3つが関連付けられているようで実態は関連していないことが多いのではないか。例えば、「研修で学んだことが日々の実務に関連していなくて使えなかった」、「研修で学んだことを現場で活かそうとしても忘れてしまっている」、「現場で活かさなくても誰から何も言われることはないし評価に影響しない」、「研修で学んだことを発揮しても上司からフィードバックがない」などだ。
経験・薫陶・学習(研修)の3つを効率的かつ効果的に関連付けていく手法がこれからのトレンドとなっている。それがブレンドラーニングである。
ブレンドラーニングとは教室学習とIT(モバイル学習、オンライン学習など)を融合させた学習形態である。ブレンドラーニングは教育現場や企業内研修でも活用されているものの、そのほとんどは、先にあげた人が成長する法則のうち10%にあたる学習・研修、または20%の薫陶を効率的・効果的にするために用いられてきた。
これからのブレンドラーニングは「経験の70%」も対象に入ってくる。シンガポールでもSkillsFutureがシンガポール国民やPR向けに提供するThe Singapore Workforce Skills Qualifications (WSQ)では2017年より研修プログラムを提供するプロバイダーに従来の教室研修(Classroom Learning)だけでなく、ITを活用したTechnology-based Learningまたは職場内での学習活用を目的としたWorkplace Learningのいずれか2つをブレンドしていくことを要請している。
<The Singapore Workforce Skills Qualifications (WSQ)の研修で求められる形態>

日系企業においてもよくあるケースは、現場育成はOJTということが多いのではないだろうか。確かにOJTとして現場上司や先輩社員がコーチング、フィードバックを通じて部下を育成するというのは今でも効果的ではある。一方で、これからは上司や周囲の力によるOJTだけでなく、職場内での学習、部下への薫陶を導く学習としてWorkplace LearningやTechnology-based Learningの手法も併せて活用していくことが求められている。
<これまでの日系企業によくある人材開発手法とこれからのブレンドラーニング>

<3つの学習の形態>
1:Classroom Learning:教室研修での学習
2:Workplace Learning:職場内での学習
3:Technology-enabled Learning:テクノロジーを活用した学習
それでは、次からはなぜこのブレンドラーニングが求められているのかを見ていく。
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