「オペレーショナル人材からストラテジー人材へ」〜海外事業の持続可能な成長に向けた人事部門の進化〜

ーAlueシンガポール代表に聞くVol.1ー
   進化が求められる人事

「オペレーショナル人材からストラテジー人材へ」

~海外事業の持続可能な成長に向けた人事部門の進化~

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企業を取り巻く環境が著しく変化しつづける昨今。数年前の常識が古く感じるほど刻々と移り変わっています。特に、アジアを中心とする海外拠点ではそのスピードを実感することが多いでしょう。

 

こうした状況に的確に対応し、持続可能な経営を実現するために、人事部門の果たすべき役割は大きくなっています。適切な労働環境や労働条件の整備といった現行業務だけでなく、「人材開発」に係る業務の重要性が増しているのです。

 

今回、「今後の人事部門の役割」についてお話しを聞くのは、Alueシンガポールで支社長として6年以上、企業のアジア地域における人事戦略の現場を見てきた羽鳥丈太氏。

 

グローバルレベルでの競争が激化する時代。日本企業はどうしたら生き残れるか。そのために人事部門はどのような進化を遂げるべきなのでしょうか。

事業計変化が求められる背景
~「グローバルでの成長」には「事業開発」を実現できる人材が重要~

ー「企業を取り巻く環境が変わった」という話はよく見聞きしますが、具体的に海外拠点(特に、アジア地域)はどのように変化してきたのでしょう。

 

日本の企業がアジアを中心とした海外に拠点を置き始めた当初、現地での「情報収集」や「資材調達」が主な業務内容でした。

 

それが、2000年代に入り新興国の経済成長にともない、アジア地域全体が徐々に「販売拠点(市場)」として現地でビジネスをしていく色合いが濃くなりました。アジア地域の支社でも、拠点内での売上を上げるという使命が。この結果、日系企業は、海外拠点においてその主な事業目的を製造から販売へとシフトし始めました。

 

そして、2010年代後半以降。デジタル技術の発展や多様性を尊重した経営など、急速にビジネス環境が変化しています。こうした経済の転換期の現在。製品・サービスをシンプルに作って販売するという従来のモデルでは成長の壁にぶちあたるでしょう。新たな事業やイノベーションが求められるフェーズを迎えているのです。

 

金融機関が進めているフィンテックなどが良い例であり、ITと金融を掛け合わせて新たな価値を創造しています。今後は、こうした複数の専門性の相乗効果により、新たな事業を展開していくことが肝要になるでしょう。

 

ー大きな転換期を迎えている現代。海外拠点においては、これまでとは違って、本社の意向を的確に実行するというよりも、支社ごとに独自の判断に基づく経営が求められるのでしょうか。

 

そのような時代はすぐそこに来ています。海外拠点は、今後ますます戦略的かつ自立した経営が期待されます。言うまでもありませんが、このような経営を進めていくためには、働くスタッフも変わらなくてはいけません。

 

海外拠点のスタッフが、従前のように本社からの指示を待っている姿勢では、新たな事業開発が求められる環境下において、企業そのものの成長は難しい。着実に指示を実行する「オペレーショナル人材」から、自分たちの部門や専門を超え新しいイノベーションを起こせる「ストラテジー人材」へ転換が必要な時代になっているのです。

 

すでにシンガポールでは、新しいイノベーションを生み出せる人材輩出に向け、改革が進みつつあります。例えば、大学教育において2つ以上の学位取得が推奨されている。将来的に、個人が得た複数以上の知識や経験からイノベーションを期待することができるためでしょう。

 

もうひとつは、シンガポール政府が掲げているSMART NATION実現のために様々な領域において、IT、デジタル、データ等を駆使した人材が急務となっており、これからの社会に必要となる新しいスキルを持つ人材を育成する狙いがあります。

 

先進的企業はもうすでにこうした人材の「転換」が始まっています。シンガポールの金融機関は、すでにデジタル分析を専門とする人材への投資を開始。データ分析ができる人材を増やし、逆にこれまでのように目の前の業務を粛々とこなす人材は減っています。

 

ー業務をこなす「オペレーショナル人材」から戦略を立案・遂行する「ストラテジー人材」。具体的に、ストラテジー人材とはどういうことができる「人材」なのでしょうか。

 

ストラテジー人材に求められる期待の例は次の通りです。

 

  • 今までの知識を生かして新たなビジネス創造につなげることができるか。

  • コーポレート機能を強化の上、支社間の情報を共有し、より生産性の高い事業を展開できるか。

  • トータルソリューションとして部門を超えた新たな顧客価値を提供できるか。



特に、めまぐるしい変化を遂げるアジア地域にいる日本企業。これまでの慣習を踏襲していては、より付加価値の高い製品・サービスを提供することは難しい。今後は、複数の知識や経験を掛け合わせながら、新しいビジネスを導き出す人材である「ストラテジー人材」が重要になってくるのです。

成長に必要な人材を確保するためには
~明確なミッション・キャリアパス、意思決定のスピード~

ーここまで、求められる人材像についてうかがってきました。成長を持続させるために、優秀な人材の確保は重要なポイントですね。

 

まさに。どの企業にとっても人材の確保は大事。ですが、定着はさらに大きな課題です。人材への投資を進めている先進的な企業は「ストラテジー人材」のように新たな価値を創造できる人材が豊富。だからこそ、イノベーションを起こせることができるので、好循環が生まれる。

 

一方で、現状のビジネスでは大きな損失が見えない中、なかなか中長期的な視点で人材への投資が進まないのも事実です。海外支社の経営に大きな問題が見受けられないのに、あえて新たな人材確保に投資するインセンティブがない。

 

さらに、スタッフが流動的だと日本側からみて、定着率が高くないとみなされてしまう可能性が。外資系の企業では、戦略に応じてスタッフを入れ替えることはよくあることです。ただ、日本では馴染みがない。欠員補充(前任者を踏襲する)以外、に新しいスタッフの育成や採用が進みづらいのかもしれません。

 

しかし、冒頭から述べてきたように経営環境は着実に変わってきています。指示だけを着実に実行する人材だけでは、企業の成長はありません。海外で生き残れないでしょう。加えて、ルーティン作業が中心の業務は外部委託され、ロボットなどが代行する時代になりつつあります。スタッフに期待する役割がこれまでとは変わってきます。

 

ー将来の人材への投資。見えないものへの投資。簡単な判断では無いと思いますが。

 

社内のすべてのスタッフをストラテジー人材にもっていくのは時間がかかると思います。まずは、企業の戦略を立案・遂行する一部のスタッフを選定して育成するという手も。同時に、ストラテジー人材の採用も進めながらその定着化を進める。

 

一部のスタッフが徐々に結果を出していくことで、新たなイノベーションが生まれ企業の成長を牽引しながら、周囲のスタッフへの波及効果が期待できる可能性があります。

 

ー時間はかかるかもしれませんが、未来へ備えるためにもストラテジー人材を育成することは大切ですね。ただ、育成しても定着しないともったいないですね。

 

そうですね。海外拠点における優秀な人材の定着には、人事制度そのものが関わって来ます。それ以外にも、「明確なミッション・キャリアパス」「意思決定の速さ」が重要だと思います。人材の定着はどの企業にとっても大きな課題。定着に向けた細かな制度面や仕組みについては別の機会に譲りますが、人事部門の業務において「人材開発」への期待の比重は明らかに高まっています。