「オペレーショナル人材からストラテジー人材へ」〜海外事業の持続可能な成長に向けた人事部門の進化〜 page2

ーAlueシンガポール代表に聞くVol.1ー
   進化が求められる人事

「オペレーショナル人材からストラテジー人材へ」

~海外事業の持続可能な成長に向けた人事部門の進化~

人事部門(HR)は海外支社長の右腕的存在へ
~企業の成長戦略(中長期計画)を自分の仕事に落とし込む~

ーこれまでのお話にあるとおり、今後は、ストラテジー人材の確保・定着に向けて海外拠点の人事への役割は重大。

最後に、これからの人事部門のあり方についてお考えをお聞きしたいです。



アメリカでは、何十年も前から人事部門は社内の「パフォーマンスコンサルタント」であると考えられています。人事部門は、実施された施策がいかにスタッフのパフォーマンス向上につながったかで評価されます。

 

また、シンガポール企業の人事部門でも変化があります。先程述べた通り、シンガポールではデータ分析ができる人材育成に非常に力をいれています。人事部門のスタッフもこの例外ではありません。企業における重要な意思決定は、主観や過去の経験で判断するのではなく、すべてデータ分析から得られた統計的な結果に基づき行われるべきと言う風潮があります。具体的には、HR analyticsといったHRの統計分析手法がシンガポール国立大学(NUS)やシンガポールマネジメント大学(SMU)で企業のHRパーソン向け認定コースを開催しHRの強化を図っています。

 

人事部門の事業へのデータ活用の例としては、前年度に実施した研修を今年度も採用するかどうか判断する場合、前年度の研修実施の結果、従業員のスキルが向上したかどうか、行動が変化したかどうか、パフォーマンスに影響が出たかどうかを統計的に分析し、統計結果に基づき次年度以降の実施可否を判断します。

 

これまでのように、参加者の満足度の結果や担当者の感覚的な判断ではなく、より客観的かつ効果的な判断をするためデータが活用され始めています。

 

一方、日本企業では人事部門の役割が大きく変わっている流れはあまり見られません。個別に見れば労働環境の改善にむけて様々な取り組みが行われています。しかし、人事部門が実施する施策が、どの程度に企業の目標達成に寄与したかという観点で評価されることはあまり多くはありません。

 

今後は、アメリカやシンガポールの企業のように、人事部門の施策と効果のつながりを、より客観的に分析することが求められると思います。その施策が、スタッフのパフォーマンス向上につながるかどうか、どのように測れば分析できるかが検討され、実施されるようになるとよいでしょう。

 

経済環境が激変する中、人事部門は経営戦略遂行の「右腕」的な存在として、戦略人事としての機能がより求められるようになり、また従業員のストラテジー人材のパフォーマンスをいかに高めるかが重要になっています。



ーずばり、人事部門は労務管理から、戦略遂行に向けた人材開発の業務に専念するような「進化(シフト)」が望ましいのでしょうか。



もちろん、これまでの通り労務管理も大切な人事の業務です。しかし、ITの活用やアウトソースなども増えており、オペレーショナル業務は一層減っていきます。一方戦略業務、戦略実行業務のニーズが企業内でも増えてくるため、人事もオペレーショナル人事から戦略人事へ徐々に変革していくことが求められています。

 

持続可能な成長に寄与する人材開発。特に、海外のエリア戦略を考える際は域内の現地社員幹部候補の育成が人事部門の主たる使命のひとつになると思っています。一部の企業では、すでに「幹部候補人材としてストラテジー人材を輩出する」ことを目的に計画している企業もあります。そのためには1クラスに20人程度集まる従来の集合型研修だけでなく、より個別化した育成が求められています。たとえば、幹部候補を1人選定し、その1人に数百万円の育成予算をかけ、経営環境の分析から課題設定、解決策の立案と実行を担います。一方一人でやるにも経験、知識、スキルが不足しているため、社外アドバイザーと社内アドバイザーをアサインし、専門知識や事例、社内情報等をサポートし、経営課題の解決をサポートするようなコンサルティングと育成が混ざったようなご支援も増えてきています。

 

ローカル経営がうまくまわっているところは、こうした人材の活用がうまくいってるところでもあります。

 

ほかにも、人事部門のスタッフへも「事業開発への貢献」を期待する企業もあります。ビジネスの材料となるネタをホリスティックに他部門・他部署と共有することが求められています。

 

一般的に、これまで人事部門を含む管理部門はあまり事業戦略などへの意識は高くなかった歴史があります。しかし、新たなイノベーションが必要な時代。固定概念を超えいくためには、人事が労務管理に比重を置く時代は終焉を迎えているのです。



ー管理部門、営業部門という垣根が低くなりつつあるのですね。ある意味、人事部門で働くスタッフも「ストラテジー人材」であることが求められる感じがします。

 

そういう時代になっていると思います。全ての部門・部署においてサイロ化せず横断的な取り組みができる「ストラテジー人材」がいる状態が望ましい。ただし、先程も少し触れましたが、全てのスタッフをすぐに「ストラテジー人材」する必要はないと思っていますし、非現実的。

 

やみくもに、「ストラテジー人材」を育成するというよりは、人材と成果の分析を行い効果的に取り組むことが望ましいでしょう。企業が成長するために、たとえばどのくらいの割合でどういう人材が必要になるか。データ分析に基づいた具体的な計画など、客観的根拠に基づいた判断が肝要と思われます。

 

海外拠点(特に、アジア)において生き残っていくのは簡単ではありません。しかし、人事部門が徐々に進化を遂げて、「ストラテジー人材」の活用が進めば未来への期待が高まります。

 

時代の変化に伴い、今人事部門はそのあり方と施策実施において大きな転換期を迎えているのです。