Alueシンガポール代表xIGPIシンガポールCEO座談会

アルーシンガポール代表 X IGPIシンガポールCEO 座談会

~効果的な事業計画の作成から達成に必要な組織づくりと人材育成~

IGPIシンガポールCEOの坂田幸樹氏(右)とアルーシンガポール代表の羽鳥丈太氏(左)の対談の様子です。

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「事業計画を策定したものの、現場が主体となって達成するのが難しい」。

経済環境の不確実性が高まり、ビジネスが複雑化している昨今、多くの企業がこうした課題を抱えています。

 

これまで以上に戦略的な視点に基づいた経営が求められる中、効果的な事業計画を策定するにはどうしたらよいのでしょうか。また、達成に向けてどのような人材を育成するべきなのでしょうか。

 

 

今回、企業再生などの戦略策定を専門とする経営共創基盤(IGPI)シンガポールCEOの坂田幸樹氏(以下、坂田氏)とAlueシンガポール代表の羽鳥丈太氏(以下、羽鳥氏)から、効果的な事業計画の策定から達成に必要な組織づくりと人材育成についてお話を伺いました。

事業計画は、企業が成長に向けて進むべき方向性を決定していくうえでも大変重要であり、経営の指針とも言えます。事業計画の策定において、現在日本企業はどのような課題を抱えているのでしょうか。

坂田氏:

 

数値目標が示されているという点についてはどの企業にも共通していますが、事業計画は企業によってとらえ方が少しずつ違うこともあり、定義が曖昧になってしまっています。こうした事業計画が経営者の中長期的な指針として十分に機能しているかは甚だ疑問です。

 

多くの日本企業の事業計画には、主に次の2つ課題があると思います。

 

1. 「売上アップ」や「コスト削減」などの大まかな数値目標だけ定め、その後ろ盾となる戦略が練られていない。

 

「なぜその目標なのか」「どのようにその目標を実現するのか」といった根拠やプロセスまで細かくブレークダウンされていないケースが多く見受けられます。このような計画では、一時的に達成できたとしても、中長期的には違う課題に直面し、うまく立ち行かなくなくなることがあります。

 

2. 現場を巻き込んで計画を作成していないので、内容(目標)が実情と乖離している。

 

事業計画は経営企画室などの専門の部署が取りまとめるのが一般的となっており、作成過程において、現場の意見を取り入れる機会が十分に設けられていないことが多々あります。あったとしても、決まったフォームで数字のみを回収するなど機械的な作業のみで、結果として現場レベルとの乖離を生んでしまう。

 

事業計画が重要だと理解はしているものの、実情では「計画を立てる」ことがゴールになっている企業も多く、単なる数値上の目標となっているケースも。もったいない傾向だと思います。

日本企業の長い歴史を見ると、これまで計画が作り込まれていなくとも、成長を遂げてきたようにも思えます。こうした過去の成功体験が、事業計画作成に対する認識や詰めの甘さにつながっているのでしょうか?

坂田氏:

 

たしかにこれまで多くの日本企業は、各事業部・各職階がそれぞれ現場で意思決定を行いながら成長してきました。そのため、現場でのオペレーション力は高い。また、参考となる成功モデルが米国に存在していた右肩上がりの時代には、事業計画が少しくらい曖昧で全社的に浸透していなくても、現場の力だけで短期的には乗り切ることができました。

 

ただ、現場での意思決定は全体最適や長期的視点からなされたものではありません。その瞬間は数字上の成果が出ているように見えても、その先の展開までは見据えていない。その場しのぎの対応になりがちです。

 

時代は、今大きく転換しています。グローバル化とデジタル化により不確実性が高まり、経済環境の変化のスピードが速まる中、事業計画が曖昧なままオペレーション力に頼るのでは、時代の変化に飲み込まれてしまう危険性も出てくるでしょう。

 

アジアのように集団的意思決定をする文化背景のある地域では、事業計画のような経営指針の策定過程において、「現場が魂を込めて」関与するステップの有無が重要になります。欧米のようにトップダウンで事業計画の達成を指示するというよりは、現場も巻き込み、合意を得ながら計画を作成する方が、日本を含むアジアでは適切だと言えます。現場が事業計画の全体像を把握した上で、これまで行ってきた意思決定の経験を活かし、部門レベルでの計画や目標に落とし込む。

 

こうしたプロセスは、同時に事業計画の現場レベルへの浸透にも大いに役立ちます。事業計画が現場に浸透していないと、現場と経営陣の意識の乖離を招き社内コミュニケーションもうまく図ることができません。

 

事業計画は、全社一丸となって経営を進め、持続可能性を高めるための重要なツール。今や、現場が踏ん張れば企業が存続できる時代ではなくなりつつあります。