Alueシンガポール代表xIGPIシンガポールCEO座談会 page 3

アルーシンガポール代表 X IGPIシンガポールCEO 座談会

~効果的な事業計画の作成から達成に必要な組織づくりと人材育成~

人材以外の面で事業計画の達成における組織的な課題は何かあるのでしょうか。

坂田氏:

 

繰り返しになりますが、事業計画の達成には、まず事業計画そのものが現場を巻き込み作り込まれていることが重要です。経営課題に基づき事業計画が策定され、現場のアクションプランやKPIに落とし込まれていれば、結果の要因分析も容易です。

 

しかし、事業計画そのものが細かく検討されず大まかな数値上の目標だけが掲げられ、現場は一生懸命にその「達成」を目指す。このような状況においては、一見「達成」したように見えても、それはあくまで短期的な成果であり、中長期的に見ると結果につながらないこともあります。一発屋のベンチャー企業が多いのには、このような背景があります。

 

また、事業計画の達成においては、現場レベルでのアクションプランの実行状況を適宜確認することが必須であることは言わずもがなですが、その結果を深く掘り下げ新たな課題(促進/阻害要因)の発見に活用しないと、単なる数字のモニタリングに終わってしまいます。その際、経営レベルと現場レベル、共通認識のもとでKPIが整理されていないと、成功・失敗要因を適切に分析することもできず、次につながりません。

 

計画達成に向けて本質的なモニタリングをするのであれば、事業計画から落とし込まれたアクションプランの実行状況について適時うまくいっている/いない要因を、KPIを基に細かく分析し、阻害要因があるならば新たな打ち手を検討するという軌道修正を逐次行ってくことが胆要となります。

 

羽鳥氏:

 

2015年頃から事業計画の達成に向けたKPI設定とアクションプランを策定することに苦労されている企業を多く伺います。

 

 

シンガポールやアジアの支社では、日本にある従来のKPIやアクションプランがアジア現地でも同じかというとそうではないケースの方が多いです。そのため、現地ならではのKPI設定とアクションプランの策定が肝要となっていることから、現場マネジャー以上が目標設定、KPI設定、アクションプランの作り方を熟知し、現場で実践していることがより求められてきています。

事業計画の策定や達成に向けて果たす人事の役割が大きくなっていることがよくわかりました。最後に、これまで以上に戦略的経営が求められる中、新たな人事の機能について教えてください。

羽鳥氏:

 

人事の役割はミシガン大学のデイビッド・ウルリッチ教授が提唱した4つの役割が1つ参考になります。

 

 1. Strategic Partner(戦略パートナー):

経営戦略・事業戦略に合致するよう人事戦略を策定し組織設計を行う

 2. Change Agent(変革のエージェント)

       企業理念・バリュー・行動規範に合致するよう、人事戦略策定・組織設計を行う

 3. Administrative Expert(管理のエキスパート)

              人・組織をとりまとめて業務を効率化する

 4. Employee Champion(従業員のチャンピオン)

              従業員一人ひとりの意見を聞き、従業員の意欲を高める支援を行う

 

 

これまでのシンガポール・アジア各国の人事部門を見ていくと、日本人駐在員の人事は「2. Change Agent(変革のエージェント)」が多く、現地社員は「3. Administrative Expert(管理のエキスパート)」と「4. Employee Champion(従業員のチャンピオン)」の役割を担う傾向を多く見受けます。論点はどの役割が重要かではなく、「1. Strategic Partner(戦略パートナー)」いわゆる戦略人事を担う人事は自社のステージではいつから必要か?そして、事業計画を達成するために4つの役割をどう配分していくことが自社にとって最適か?を問いていただきたいです。

 

 

坂田氏:

 

戦略的人事という考え方は、これまでの「日本らしい経営」では見られません。特に人材育成については、あらゆる部署をローテーションすることで企業知識の豊富な人材を育てることが優先されてきました。戦略的な人材の育成はあまり行われてこなかったのが実情です。

 

しかし、経済環境が目まぐるしく変化を遂げる中、イノベーティブな人材や戦略的思考力を備えた人材の必要性は急速に高まっています。これまでのやり方では、企業の持続的な発展は望めないでしょう。人事だけではなく経営のあらゆる側面において「戦略的」になることが求められているのです。

 

日本企業には、高い現場力による「日本らしい経営」によって今日まで成長を遂げてきたという実績があります。しかし、こうした経営スタイルから新たな経営に舵をきるタイミングが今まさにきています。

 

今後は、「日本らしい経営」を勘案して、「戦略的」な機能を各レイヤーに追加していくことが、生き残りへの鍵となります。現場にいかにハイレベルの戦略を浸透させるか、人事部門がいかに戦略を理解し人材育成を進められるか等、現場を巻き込みながら中長期的視点に立って経営を進めていくことが重要です。

 

ただし、これまでの経営をいきなり変えることは難しいと思います。「両利きの経営」と言いますが、組織が持続的に変化して生き残っていくためには、「現状の深化と新たなことの探索」の2つのことを同時に進めていくことをお勧めしています。

 

人事部門もこれまでの業務を粛々とこなす一方で、事業計画の達成に向け従業員の行動分析から始めるなど、できる範囲から探索し、徐々に新たな「戦略的」機能を追加していくとよいでしょう。

 

羽鳥氏:

 

アジアの日系子会社ではまだまだ人事部門の機能がオペレーショナルなものによっていますし、現場の現地社員もまだまだオペレーショナルな役割を担っていることが多いです。

今後は、人事部門も戦略的に経営を支える部門として進化していくための戦略人事の育成だけでなく、現地社員が経営課題に参画したり、事業計画を策定するために必要な戦略的思考を備えたリーダー育成をしていくことをお勧めします。