坂田氏:
労働市場の流動性が低く組織内でジェネラリストを育成してきた日本企業においては、経営リテラシーを持ち、効果的な事業計画を策定できる人材というのは絶対数として多くないのかもしれません。
マネジメント(経営者や部長など)層にいるような人材でも、経営に対する深い理解のないまま、事業計画の策定に携わることになったりトップに就いたりすることがあります。自社の製品・サービスに関する知識や現場での経験は豊富であっても、「経営」の経験がない。
こうした人材が事業計画作成の責任者となり、計画自体が本来どうあるべきなのかを理解しないまま旗を振っていても、結果的に形だけの計画になってしまう恐れがあります。経営コンサルタントなどの外部支援を依頼することもできますが、魂が宿っていなければ机上の空論になりがちです。また、こうした人材を補完するために、経営リテラシーが高く意思決定に関し専門的に学んできたMBA保持者を採用する企業もありますが、うまく活用できていないケースも見受けられます。
「効果的な」事業計画を策定できる人材は、まだまだ活用も育成もしきれていないのが現状でしょう。外部にせよ、内部にせよ、専門家の力を最大限活用するためには、事業計画作成に携わるチームメンバー、とりわけ責任者は、経営に対する深い理解と知識を持ち合わせていることが必要最低限の条件です。
羽鳥氏:
事業計画の策定に携わる上で現場を巻きこむことは重要ですが、実際に策定する人材というのは、社内の中でもごく一部に限られています。
特にシンガポールを中心にアジアにあるほとんどの日系企業は、この事業計画の策定が日本人駐在員、または本社に委ねられており、かつ現地社員幹部による事業計画の関与度合いが少ないケースがほとんどではないでしょうか。日本人駐在員からすると現地社員にもっと自律的に会社視点で経営課題・組織課題を捉え、解決策を立案する行動を期待している声が多い一方で、現場では現地社員が事業戦略の策定を任される機会はほとんどなく、現場のオペレーション、マネジメントをしてもらうことが求められていることが実態です。
結果的に、現地社員が「経営」視点で実務を行う経験の絶対値が少ないだけでなく事業計画を考えるために必要なビジネススキルも兼ね備えていないため、事業計画を考えよと日本人上司から依頼を受けたとしても、日本人駐在員からすると期待に届かないアウトプットしかでてこないケースが多いのではないでしょうか。
坂田氏:
先程、現場を巻き込んでという話をしましたが、それは事業計画の策定において必ずしも全ての従業員が関与しなければならないということではありません。事業部などの幹部レベルが主体的に事業計画の作成に携わる。その幹部から部門内への具体的な指示を通じて、結果として全社的な計画の浸透が期待できます。
また、どの程度現場を巻き込むべきかは、業種や企業の成長フェーズによっても異なります。業種によって、ある程度はトップダウンの意思決定のほうが効果的な場合もあれば、主要な事業部の幹部を意思決定(事業計画の策定など)に巻き込むほうが効果的な場合も。その企業が成長期にあるのか、成熟期にあるのかによっても、誰をどのように巻き込みながら進めるべきかは変わってきます。
ただ、どの業種・状況においても共通して言えるのは、事業計画を現場にまで浸透させることは必要不可欠だということです。
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